竜馬の人生への基礎は確立した。勝に会ったことが、竜馬の、竜馬としての生涯の階段を、一段だけ、踏みあがらせた。
(人の一生には、命題があるべきものだ。おれはどうやらおれの命題のなかへ、一あしだけ踏み入れたらしい)
このとし、竜馬二十八歳。
まったく晩熟である。すでに、のちのち竜馬とともに維新成立に活躍する長州の久坂玄瑞、高杉晋作、桂小五郎、薩摩の西郷吉之助、大久保一蔵などは、それぞれの藩の立場から「国事」に奔走しているのに、竜馬は、
「一歩」
のぼっただけである。しかも倒幕志士であるはずの竜馬が、幕臣の勝海舟に見出されたというえたいの知れぬ「一歩」を。
−『竜馬がゆく』三巻より−



